通信系へのデビュー
語り手:岡田英人(おかだ・ひでと)

● ゼロからのスタート

自分の同期は、宮下君と居相君で、二人ともそれぞれ技術的に得意な分野を持っていました。自分は、これといって強みを持っていなかったので、このプロジェクトで何をしていったらいいか、悩みの種でもありました。ちょうど、CubeSatのサブシステムの担当者を決めることになり、CanSatで通信系を担当されていた鶴見さんが就職されるということで、次期通信系を担当する人がいなくて、ポストがあいていました。

自分は、その当時、通信については、全く知識がありませんでしたが、せっかくCubeSatに関わるのであれば、一つ重要なサブシステムの開発をしてみたいと思っていましたし、技術的な強みを作りたいという思いがあり、通信系をやりたいと手を上げました。

証言:占部 智之(うらべ・ともゆき)
東工大は秋葉原で購入した民生品をFM送受信機として利用することに挑戦していました。最初に掲げたコンセプトの一つに「宇宙利用実績のない民生品の利用による衛星の低コスト化」が挙げられていたからです。もし民生品をそのまま流用できれば、今後の衛星開発にとっても手軽な手段となります。ただし構成品の一部を(民生品では適当なものがなかったため)メーカーにお願いして製作していただくということはしました。大部分を自力でやる気概をもって当初から進めましたが、やはり知識、経験が全く足りておらず、何をしてよいか分からなかったというのが正直なところです。岡田さんが"うまく仕事を割り振れなかった"と言われていましたが、何を割り振ってよいのかも分からないような手探りの状態だったんです。

でも、鶴見さんが卒業されて、自分のほかは、プロマネの此上さんだけという状態で、通信系の開発にあたることになり、プレッシャーの大きさに愕然としました。もともと、うちの研究室は、機械系なので通信の授業はひとつもなく、知識はゼロといっても過言ではなかったのです。何をすればいいのかというところから学んでいかなければなりませんでした。

● 通信系の仕事

通信系の仕事は、多岐に渡っています。衛星に搭載する通信機の開発から、衛星のデータを音声データに変換するTNCのプログラム開発や、3つの無線機を収納する箱の製作、無線免許申請、アンテナの製作、衛星電源を使った時の無線機の性能試験や、衛星構体にアンテナを取り付けた状態でのアンテナパターン試験、それから、地上局の無線設備の試験と、本当にさまざまなことをやって、はじめて衛星と地上との通信が可能になるのです。

自分は知識も経験も足りないし、人手も足りなくて、なかなか作業が進みませんでした。四月に、占部がはいってきたのですが、やはりその人数では仕事が回りませんでした。自分がうまく仕事を割り振れなかったせいもあるかもしれません。その次の年になって、尾曲が入ってきて、いつのまにかサブシステムの中では一番通信系の人数が多くなりました。

● 不具合の温床

通信系はCubeSatに搭載している機器の中で最も電力を使う機器を扱っているので、電源系には相当負担をかけてしまいました。電源系担当だった宮下君は、基板の設計について色々と一緒になって考えてくれました。

通信機から出るノイズがセンサ系のセンサに影響を与えてしまったこともありましたし、OBC(コンピュータ)とは、コマンドのやり取りなどをやるのですが、これもノイズで受信機がうまく動作せず、コマンドがうまく通らないことがありました。通信系は不具合の温床といわれたりして、けっこうつらかったですね。

衛星を組み上げて動かないときが一番最悪です。東工大は、各サブシステムごとにそれぞれが作って、あらかじめ決めておいた日に、一気にCubeSatを組み上げる、ということをやっていました。組み上げて実際にちゃんと動くかどうか試験をするわけです。

Engineering model

みんなが試験するぞ、と集まっているのに、通信が動かなくて試験が止まってしまうことがよくありました。最悪の場合、せっかく組み立てた衛星をばらさなくてはいけなくて、構造担当の澤田さんには迷惑をかけました。あまりに構体をばらしたり組み立てたりする事が多かったので、構造担当からOKをもらって、自分でばらしたり組み立てたりしました。たぶん、CUTE-Iを分解・組み立てした回数は、澤田さんの次に自分が多いかと思います。

● 通信機は寒さが苦手

CUTE-Iは無線機を3つ搭載することになっていました。送信機2つと受信機1つで、そのうち送信機1つと受信機は、秋葉原で買ってきた全くの市販品です。市販の無線機は、量産されているだけあって、普通に使う分には問題ないですし、消費電力も少なく、小型です。真空試験でも、一部部品を取り外せば問題なく動きました。

問題は温度で、低温(-30度以下)になると、思い通りに動いてくれませんでした。動作保証外の温度ですので、当然といえば当然でした。低温では、電源からあまり電流が流せなくなってしまいますから、気球実験では、無線機が動かなくなってしまいました。無線機は、一番電流を消費するものなんです。

もう一つのCW送信機は、市販品で小型のものが見つからなかったため、これまでCanSatで何度かお世話になっていた会社に製作をお願いしました。このCW送信機は、低温での特性は抜群でした。気球実験で-20〜-30度にさらされても問題なく動いていました。しかし、消費電力が多く、電力削減には色々と悩み、低消費電力の水晶発振器を探したり、より効率のよいトランジスタを探したりしました。

水晶発振器をかえて、消費電力は減ったのですが、低温での動作があまりよくなくなってしまったり、変更したトランジスタの特性があまりよくなくて、消費電力は減ったものの送信電力が思うように上がらなかったりしました。よかれと思った改修が裏目にでてしまい、やはり素人が口を出すべきではないな、と思ったこともありました。

それでも、とにかく通信系を完成させないことには、衛星になりませんから、あれやこれや工夫しました。

証言:占部 智之(うらべ・ともゆき)
岡田さんは、自分自身の手ですべてやってみないと気が済まない「こだわりの男」でした。CubeSatプロジェクトは小さなプロジェクトですので、一つの特長として、個人のこだわりがある程度きく点が挙げられると思います。そしてそのこだわりこそが人間を育てるとも思います。現に岡田さんは、現在、某会社の通信部門で働かれています。通信系の知識ゼロからスタートしたにも関わらず、"せっかくCubeSatに関わるのであれば、一つ重要なサブシステムの開発をしてみたいし、技術的な強みを作りたい"という想いを強く持ち続け、最終的には成就されたわけです。本当に熱い男・岡田英人でした。