24時間交代の熱真空試験
語り手:程島 竜一(ほどしま・りゅういち)

● 「熱辛苦う」試験のはじまり

熱真空試験は、衛星がどんな温度分布になるかということと、回路や電子機器が極低温でも動作するかということを調べるために行いました。衛星のある箇所の温度の時間履歴をとったり、回路や電子機器の動作確認をしました。

東大が宇宙研の施設を使わせてもらっていたので、東工大もやりたいと頼んだのですが、素人の学生に設備を使わせるのは教えるのが大変だということで、断られそうになってしまいました。結局、「東大の学生から使い方は習う」という条件つきで、お借りすることができました。

東大の酒匂さんや金色君から設備の使い方などを教えてもらいました。それを基に自分達で試験のマニュアルを作成し、実験に臨みました。

● 24時間交代勤務

この試験は、24時間体制でやらなければならないもので、東大は12時間交代にしていたみたいでした。でも、当時実験に参加できるのが10人程度だったのに、実験には最低3人必要でした。また1週間程,昼夜問わず実験を続けなければならなく、始発や終電の時間、他 の開発スケジュールを考えると24時間交代制にするしかありませんでした。

自分がこういうアレンジをしたんですが、みんなから不満が出て大変でした。それでなくても疲れているのに、「24時間寝ずに」作業をするようことになってしまったのですから。

いつも誰かがぶちぎれていました。過酷なんです、やっぱり。単調作業が延々と続き、睡魔とも闘わないといけません。みんなはそれでも24時間交代なんですが、僕はこの試験の担当者だったので、寝るどころではありませんでした。だから、寝られるときには、寸暇を惜しんで寝ていましたね。

証言:此上 一也(このうえ・かずや)
作業中の雰囲気がそんなに悪かったわけではないんですが、時間が長くて、単調な作業が続いていて、徹夜しないといけませんから、みんな気分的にまいってしまっていた記憶があります。そういう状態のときに、機嫌が悪くてあたりちらしてしまうひとと、ただただ疲れきって黙々とやってくひとの2パターンがあるみたいですね。やはり、24時間交代は肉体的にもきついので、12時間交代くらいが適切だなあと感じました。

● 試験の結果

試験の結果、いろいろなことがわかりました。たとえば、キューブサットの中で極端に温度が下がってしまう箇所があるということ、極低温だと電池が電流を流せず、バス機器が正常に動かないことなどです。つまり、温度対策(できるだけ温める)が必要だということがわかりました。

ただ、電子機器の動作保障が、スペック上は大丈夫という程度だったのできちんと動くかどうか分からなかったし、衛星の温度状況も簡単なシミュレーションしか行っていなかったので、未知の環境で使用する事はとても不安でした。

とはいうものの、模擬環境とはいえかなり過酷な環境でも元気に衛星が動作してくれたことは、開発員全員にとってかなりの安心材料になりました。また、温度分布が確認できた事で温度対策の目安にもなりました。