太陽センサーとカメラ
語り手:宇井 恭一(うい・きょういち)

● カメラ不搭載の決定

カメラが載っているのに、画像がないのはなぜ?とよく聞かれます。東大が画像で一般受けしているのに比べると、東工大のは地味ですよね。自分たちのカメラは、太陽を撮影していますが、それはセンサーとして使っていて、画像をおろしてくる仕組みにはなっていないんです。

もともと、キュートにカメラは搭載しない予定でした。ミッション検討当初、カメラがほしいという話はもちろんありました。2000年のARLISSのときに、カンサットでカメラミッションをやって、けっこううまくいったこともあって、カメラにそれほど執着しなかったということもあったかもしれません。もっとも、このときはアナログでやっていて、キューブサットでやるならデジタルでやらないといけなかったので、技術的には全然違っていましたけどね。

それで、全員が集まったミーティングのときに、「本当にカメラを載せなくていいね」という最終確認をしました。居相とか宮下、岡田あたりは、カメラをやりたがっていて、デバイスの選定までしていました。でも、「誰がやるのか」という問題がありました。誰かがやらなければできないわけですが、本当に人手が足りなかったんです。それで、「東大がカメラを載せても、東工大は載せないという方針で、本当にいいんですね」と念をおして、「搭載しない」と決定しました。

● 太陽センサーカメラ

ところが、東大のカメラがうまくいきだしたというのがホームページで出たんですよ。それを見た松永さんが「カメラ、載せなくていいの?」と。

ちょうど、太陽センサーの開発をしないといけない時期で、自分が担当で進めていました。そこで「カメラでやってみたら?」という話になって、自分は、うなずいてしまったんです。これは、後で考えると、たいへんなことを引き受けてしまったわけなんです。

太陽センサーは、太陽セルを使うのが一般的で簡単なんです。小さな穴をあけておいてセルに太陽光が一部あたるようにしておけば、電流がどれだけ発生したかを計測するだけで、太陽がどの角度であたっているかを特定できる仕掛けです。これは、きちんと開発すればかなりの確率でちゃんと動いてくれます。

それなのに、わざわざ、カメラをセンサーにすることにしたんです。今度同じ状況があったとしたら、期限を切るだろうと思います。ある時期まで開発をやって、できなければ、別の手段に変える、というようにしてやるべきだったと思います。それをしなかったので、ずるずると、カメラの開発に時間をとられてしまったんです。代案を持っていたわけでもなかったので、できなければできないまま、次の期限までに必ず進めます,ということを繰り返す形になってしまいました。


太陽センサ基板

そのうえ、このときのCUTEのシステムでは、カメラの画像は落とせないと言われていました。カメラは搭載できるけれど、画像をおろすことはできなくて、処理後のデータをおろすしかできなかったんです。でも、画像がなくても、理論的には、データだけでセンサーの役割を果たせると思っていました。ですが、センサーとしてカメラを用いる場合、「画像がとれました」というだけでは意味がなくて、本来ならばその先から仕事が始まるんです。画像を落とせれば、後処理ができますが、落とせなければ、宇宙で全部処理をしないといけないわけです。そして、その処理が本当にうまくいっているのかどうか、判断するために、地上での試験が欠かせないのです。

● カメラと太陽と姿勢制御

地上で確認しなければならなかったことは,このカメラで太陽を写すと、どのように写るのか、ということです。太陽シミュレーターを使って、角度をずらしたときにどのくらいずれて写るかというようなことも、前もってデータとしてもっておかないといけなかったんです。でも、時間とか予算とか人手など、いろいろなことがあって、それはできないままに、打上げてしまいました。

さらにいえば、そのカメラ自体、ちゃんと動くかどうか怪しかったんです。東大もウチもCMOSカメラを使っているんですが、東大は既に組み立てられている製品を使っているのに比べ、ウチのは、受光素子レベルからはんだ付けして作っているんです。なぜならば、キュートの設計がかなり進んでいたため、ほとんど出来上がった中にいれるしかなく、入れる余地が本当に少なかったので、しかたありませんでした。


CMOSカメラ基板

要するに、CMOSカメラの開発に関してさえよく知らないのに、「カメラを太陽センサーに使って姿勢を測る」という大胆なことにチャレンジしていたわけなんです。スターセンサーの例はあります。恒星の配置をとって、既存の星地図と比較して、カメラがどこを向いているのかがわかるんですが、太陽センサーで姿勢がわかるというのは、実際に成功している例があるのかどうかさえわかりませんでした。

● ノーといえないエンジニアの卵

エンジニアというのは、(自分はエンジニアの卵ですが)、いっぺん走り出すと、どうしてもやりたくなってしまうものなのかもしれません。カメラを載せましょうということになったら、途中でできないとは言えず、代案を出すというふうにもならず、「がんばります」と言いつづけてしまいました。しかも、開発計画の関係上、回路の変更もきかなかったんですが、ソフトウェアを工夫して、なんとかうまくやろうとしていました。

2001年のARLISSで、カメラのテストをしてみようということになり、それに間に合わなかったら、カメラはやめるという話もありました。結局間に合わなかったんですが、やめるという判断はされないままでした。自分も、やめるとは言いませんでした。自分のプライドみたいなものもあったと思います。


CMOSカメラの画像

画像としては何とかとれるようになりました。それほどきれいにとれるわけではなかったのですが、明るいか暗いかの判断はできるところまではきました。しかし、太陽が画像の中で、どれくらいの大きさで動くのかがわからなかったのが、致命的でした。カメラを作るのに精一杯で、構造系とのミーティングでも、穴だけあけてもらうように頼むのが精一杯で、開発は後手後手に回ってしまいました。

そんなわけで、キュートは無事にあがって、画像もバシャバシャとっているみたいなんですが、自分たちがその画像を見ることはなく、データも、どこまで信用していいのかわかりません。だけど、今あるデータを使って「動いていた証」を見つけるべく頑張る予定です。どんなに反省点の多い太陽センサーでも、相当努力して仕上げたものなのですから。

カメラがうまく動かないのに、「載せない」なんてとても口にできる雰囲気でなく、でも、やっぱりうまくいきそうもない。それでも、メンバーは自分のやる仕事を信用してくれるし、開発状況が芳しくなくても責める事はなかった。そんな状況が続いて、つらかったですね。ノーと言えない自分を発見しました。

自分が、ここで得た一番大きな収穫は、「できないときはできないと言う」ということかもしれません。また、「ノー」というためには、想像力を働かせて、いろいろな可能性を考えて、きちんとした裏付けをもっている必要がある、つまり、ものすごく勉強しないといけない、ということも学びました。