再度打上げ延期の通知
語り手:津田雄一(つだ・ゆういち)

● シップメントは2ヵ月後

2001年12月1日にシップメントという予定でしたから、あと二ヶ月しかない、というプレッシャーの中で、みんな夜通し作業を続けていました。基板の設計ミスを発見して、大急ぎで発注しなおしたときには、冷や汗ものでした。本当に、ぎりぎりで間に合うかどうかという瀬戸際でした。 シップメントの日にちは決まっていたものの、インターフェイスの情報はほとんどなく、カルポリが作ることになっていた分離機構もどうなっているのかもわからず、キューブサットを作る作業と平行して、あちこちに問い合わせをしていました。東工大のプロマネの此上とも、そのことでは何度もやりとりをしました。

● OSSSからのメール

そんなとき、「キューブサット」が「休部サット」になってしまうような知らせが届きました。打ち上げが延期になったので、シップメントも延期になるという通知でした。キューブサットの打ち上げアレンジをしてくれているOSSS(One Stop Satellite Solution)というアメリカの会社のCharles Bonsalさんからのメールでした。

今まで、2002年5月に打ち上げといっていたのが、2002年の秋まで延期されたというのです。メールによれば、コスモトラスのアメリカ代表がそのように言ってきたということでした。理由は、主衛星のスケジュールの変更によると書いてありましたが、実際のところはどうだったのかよくわかりません。ともかく、打ち上げ自体が延期になったから、ピギーバックで載せてもらう僕らの衛星のシップメントも、2001年12月である必要はなく、翌年の3月か4月になりました。

打ち上げ延期は、これでもう二度目です。前のときは、あまりに進んでいなかったので少しほっとする面があったのも確かなんですが、今度は絶対に間に合わせるという意気込みで、メンバーにも発破を掛けてやっていたので、怒る気力もうせて、あきれはててしまいました。

夏に、酒匂と小型衛星の会議参加したとき、ちょうどOSSSがあるユタ州で行われたので、インターフェイスの調整や契約相手の会社を視察するため、訪問したのですが、そのときなど、Bonsalさんは、とても親切に応対してくれました。

OSSSという会社自体はベンチャー企業で、日本の感覚からいうと、大丈夫か?という感じがするほど宇宙をやるには小規模な会社でしたが、そこはアメリカのお国柄ということで理解していました。JAWSATという衛星(StanfordのOPALも搭載)を打ち上げた実績のあることも信用する材料でした。今はOSSSに対してよい印象はないのですが、Bonsalさんをはじめとして、それは決して向こうの人一人一人が悪いというわけではないのです。極端に大きなことを言って注目を集め、お金を集めるというアメリカのカラーというか、米国ベンチャー企業の悪い部分をみてしまったのだと理解しています。

●津田@休部

ともかく、プロマネとして、僕はチームのみんなにそのことを知らせなければなりませんでした。てんぱって(マージャン用語からの転用で、時間ぎりぎりで必死でがんばること)作業しているときに、冷水をぶっかけるようなものですから、どのように伝えるべきか悩みました。結局、淡々と事実を伝えるようにして、シップメントのスケジュールはだいぶ遅れる模様ということを書いて、OSSSからのメールを転送しました。署名は、「津田@休部(キューブ)」としました。

● 焼肉食べて牛よりも狂う会

打ち上げが遅れて、2002年の秋になるということでしたが、この調子ではまた遅れても不思議はありません。僕は2003年の3月の卒業予定でしたから、下手をすると、打ち上がらないうちに卒業してしまう可能性もあります。(実際、そうなってしまうんですが)スタンフォード大学を見学したときに見せてもらった、「作ったはいいけど打ち上げ手段がない」かわいそうな衛星の姿がちらりと頭をかすめました。

僕ががっくりすれば、メンバーにも伝わりますから、なるべく平静を装っていました。しかし、僕も人間です。自分自身の意欲を高め、メンバーの士気を高める必要がありました。 で、考えたのが、焼肉パーティです。当時、狂牛病がはやっていたので、「焼肉食べて牛よりも狂う会」としました。20日の土曜日に、津田邸(小さなアパートの部屋ですが)に、みんなを呼んで焼肉パーティをしました。卒業していたヤマゲンなども呼んで、飲み、食らい、語りあかしました。

● 士気の維持

CubeSatプロジェクトを進めるにあたって、士気を常に高く保つために心がけていたことが4つあります。鵜川や石川と議論したことがあって、プロジェクト進行の“サンクス(SNCS)”などと呼んでいました。


  • Story
    だれもがわかりやすいプロジェクトの意義付けがされていること
  • Novelty
    メンバーが魅力を感じる新奇性があること
  • Commitment
    メンバー一人一人に強い参加意識になるような責任が課せられること
  • Speediness
    魅力が廃れないような速さでプロジェクトを進行させること

打ち上げが延びるからといって開発もゆっくりでいいといったら、Speediness がなくなってしまいます。メンバーの士気を下げないように、当初の予定どおり12月1日完成を目指すという目標は変えませんでした。