恐怖の熱真空試験 第1回 2001年4月17−21日
語り手:金色 一賢 (かないろ・かずたか)

● 新人リーダー

M1になったばかりの僕が、熱真空試験のリーダーだったんですが、正直なところ、どうして僕がリーダーになったのか、よくわからないんです。僕が中須賀研究室に初めて来たのは、2000年の1月でした。学部3年のとき、酒匂さんが衛星システムの授業にやってこられて、カンサットの発表をしてくださったんです。それで、すごい研究室があるなあって思って。そこで、「こういうプロジェクトをやりたい人はどうぞ来てください、鵜川君はもうやっていますよ」ってことだったんで、僕も来ることにしました。

僕の同期で、そのときリーダーをやったのは僕だけでした。新入社員が急に部長になったくらいの感じでした。いえ、僕が特に優秀だったというようなことでは全然ないんですが、確か、スキー合宿へ行って帰ってきたら、環境系をやっておられた徐さんがぬけるので、そのあとリーダーに、ということだったと思います。宇宙環境系というのは、けっこう魅力的ではありました。宇宙工学の醍醐味というか、宇宙だからこそやれるところですからね。でも、僕は、どれだけこの実験が大変なものなのか、わかっていませんでした。

● 二十四時間、働きました

どれくらい大変だったかというと、あれがなければ進路が変わったかもしれないくらい、大変だったんです。二十四時間体制でデータをとらないといけないので、朝9時から夜9時までと、夜9時から朝9時までという二交代制にしてシフトを組むことにして、全員に協力を仰ぎました。みんな忙しい中、協力してくれましたけど、こういう、人の管理みたいなものも、実はすごく神経を使うんですね。

そのうえ、宇宙研に泊まりこんで作業している間じゅう、アクシデントの連続に、気が休まる暇はありませんでした。熱真空試験自体は一週間くらいなんですが、前後一週間ずつは準備やその後の解析をしないといけなくて、睡眠不足がずっと続きました。宇宙研に仮眠室がありましたが、僕はほとんど寝られませんでした。

試験は二回やりました。いえ、別に失敗したというわけでなくて、サイII(二つ目のBBM=ブレッドボードモデル)を4月に試験して、その結果をふまえて、サイIII(EM=エンジニアリングモデル)を作って、6月に試験する、という段取りでした。最初からそういう予定だったんです。

● 熱真空試験のサクセスレベル

熱真空試験というのは、宇宙環境を模擬したような環境、つまり、真空・低温の状態に衛星をおいて、ちゃんと動くかどうかとか、そういう環境で熱の伝わり方はどうかなどを調べる試験です。カンサットのときは、宇宙へは行かなかったので、宇宙環境を模擬した試験は不要でしたから、これは、僕にとってはもちろん、メンバー全員にとって初めての体験でした。

宇宙研の大西先生が、熱真空のプロで、いろいろと教えていただきました。宇宙研にはドラム缶くらいの真空チャンバーがあって、宇宙環境に近い状態を作ることができるんです。宇宙は、マイナス269℃ですが、チャンバーの中は、マイナス194℃くらいまで下げることができます。

僕らは、最初、「真空中で、温度が変わっても、衛星が機能することがわかればいいんだろう」くらいの認識しかなかったように思います。でも、本当の熱真空試験というのは、シミュレーションを作るためのデータをとるものためのものだったんです。キューブサットみたいに小さな衛星は、これまで誰も取り扱ったことがないので、大きな衛星用のやり方で、本当に信頼のおけるデータがとれるのか、よくわからないところもありました。ふつう、一トンくらいの衛星だったら、一キロくらいの機器は温度が一定と考えるみたいですが、キューブサットの場合は、それ一個でむきだしの状態になりますから、そういうふうには考えられないですし。

この実験でのサクセスレベルは、3つあったと思います。 1. 真空の中で機器がちゃんと動くか 2. ある軌道を仮定できるか 3. 熱のシミュレーターのモデルが作れるか

1と2は、なんとかできたんですが、3は、最後までできませんでした。熱特性の係数を推定するまでにいたらず、津田さんに「解がないなんてありえない」と言われたんですが、できないままでした。本当に解があるんだろうか、というところも、実はよくわからなかったです。

● ぶち切れる"線"たち

具体的に何をやったか、ですか?えっと、どこから話せばいいでしょう。

熱真空試験のときには、まず、表面に、黄色い下地塗料を塗って、洗濯物を干すみたいに、乾くまでぶら下げておきます。キューブサットの外面は6面ですから、6枚塗りました。乾いてから、Z306という黒色塗料をぬるんです。僕と徐さん、酒匂さんがその作業にあたりました。熱真空試験というのはもしかしたら、すごく大変なのかもしれない、と思ったのは、このときです。この塗料の塗り方一つで、反射率が変わってしまい、結果が変わってきてしまうそうで、何日もかけて丁寧に塗らないといけないそうなんです。ささっと塗ればいいんだろうくらいに甘く考えていたので、それを聞いたときは驚愕しました。やっとのことで塗り終えたときは、思わず、「ハア」とため息が出ました。

それから、太陽光があたるところだけが熱くなることを模擬するために、ニクロム線を衛星の表面に這わせます。このニクロム線には泣かされました。チャンバーに入れて、実験していたら、突然切れちゃったんですよ。計器を見ていてそれがわかったときには、心臓がぎゅっとなりました。

それから、温度をはかるために熱電対をはります。熱電対っていうのは、2つの異なる金属線を接続して1つの回路(熱電対)をつくり、2つの接点に温度差を与えると回路に電圧が発生するという現象を利用したもので、赤と白の線が交わるところで温度が測れるんです。でも、ちょっとした衝撃でも切れるので、セッティングが大変でした。あの小さいキューブサットに40本くらいはると、すごいケーブルの束になりました。 

証言:桑田 良昭(くわた・よしあき)
やっと少し時間を見つけて、仮眠室で寝ていたら、金色が来たんです。顔がこわばっていて、「くわた、電熱線が切れた、どうしよう」って言うんです。太陽の熱があたって熱くなるのを模擬するために、ニクロム線を衛星の表面にはわせているので、それが切れたら、太陽がなくなったと同じことで、実験ができなくなります。僕は朦朧としたまま、とにかく起きだして、実験室のほうに行きました。すぐに、緊急ミーティングをして、対応策を話し合いました。確か、ミッションを変更することになったんだと思います。リアルタイムで対応できたのはよかったと思いますが、眠いし、どうして切れたのかわからないし、あれにはまいりました。配線が悪かったんじゃないかということになって、二回目のときは工夫してみたんですけど、二回目も、また切れてしまったんです。

● それでもキューブサットは動いている

というわけで、第一回目の熱真空試験では、真空においても、ちゃんとキューブは動くということがわかったという成果がありました。また、熱真空試験では何をすべきなのかが少しわかったという成果もありました。キューブサットの一番の使命は、「サバイバル」なので、線が切れようが、どんなアクシデントが起ころうが、宇宙でもちゃんと動いてほしいですね。