エンジニアリングモデル完成
語り手:津田 雄一(つだ・ゆういち)

● エンジニアリングモデル(EM)

打ち上げがどうなろうとも、年末までにはキューブサットを完成させるという目標をたてて、それにあわせて開発計画をたてていました。当初はEMの完全完成を5月31日としていましたが、6月4日から熱真空試験、6月11日から振動試験と、あとの日程がつまっていたので、優先順位をつけて完成させることにしました。まず、熱真空試験をするためには、実際と同様の発熱(つまり同様の消費電力)を模擬する必要があります。それで、電気的な接続・動作確認を終了させ、また、熱真空試験と振動試験では、機器配置や組み立てなどの機械的なつくりが重要だから、構体の中に全てが設計どおり納まるようにし、ネジ止めや部品のモールディングを行いました。モールディングというのは、接着剤のようなもので素子を埋めることです。細かな性能評価や搭載ソフトウェアの改良などは、これらの試験にはあまり関係がなかったので、後回しにすることにしました。

5月31日に組み上げの予定でしたが、いろいろとずれこんでしまい、やむなく一日延ばすことにしました。このとき、インテグレーション項目は、すべてチェックするように全員にメールを送りました。そして、6月1日のミーティングで報告すべき内容も事前に知らせておきました。以下のような内容です。

(1) XI-III製作で判明した問題点,設計ミス(全て,詳細に)
(2) FMに必要で,XI-IIIで実現できない機能
(3) これまでに動作を確認した点
(4) まだ確認していない事項と,確認予定期日
(5) 構体全体を使用する試験とその予定日(環境,通信,カメラetc)

● XI-III完成!

6月1日、XI-IIIが完成しました。BBMを二回作ったので、それぞれXI-I、XI-IIという名前で、今度のがIIIというわけです。IVとVは、本当に宇宙へいくフライトモデルとして作る予定でした。


Engineering Model (EM) XI-IIIの写真

XI−IIIのインテグレーション(組み立て)作業には、各系から一人ずつ人を出してもらって行いました。事前に、それぞれの系で基板・構体等の単体動作確認と準備をしてもらっているので、単独ではほぼ問題なく動くようになったものを組み立てて、全体として統一がとれた動きができるかどうかをチェックします。思ったよりもすんなりと動いて、少しほっとしました。

● 重量問題

でも、完成の喜びはほんのつかの間のことで、すぐに、次々と表面化してきた問題に取り組まないといけませんでした。たとえば、「重量問題」がすぐに発覚しました。衛星の重量は1キロと決まっていて、4月の時点で各担当者が見積もりを出していたんですが、実際にできあがった重さは、見積もりの時よりもかなり重くなってしまっていました。構造系の宮村が、電源系と太陽電池パネルの軽量化が必要だと指摘しましたが、電源系の酒匂は、「削減は不可能とはいわないが相当に厳しい」という返事をよこしました。

● アノマリシミュレーション

重量問題のほかにも、たくさん問題がありました。プロマネの仕事は、その問題点をあますことなくリストアップし、各担当者に対策をお願いすることでした。「あますことなく」問題点を抽出するために,試験を計画するのも私の仕事でした。

<証言:有川善久(ありかわ・よしひさ)>
確かに、「そんな状況、絶対おきませんよ」と言いながら試験をやらされていた記憶があります。よく、そんな状況を考えつくなと思うような、重箱の隅を突っつくようなことなんです。
絶対この人(=津田さん)、イヤミな姑になれるなと思いながら、さまざまな地道な試験をいやというほど繰り返しました。

たとえば「アノマリシミュレーション」という試験では、わざと電子基板の間の通信路を断ち切って、それでも各サブシステムがハングアップすることなく独立して最低限の動作を行えるか、電源の一部がダウンしても他の部分は生きていられるか、過電流防止や自動アンテナ切り替えなどの安全設計がうまく機能するかなどを調べました。XI-IIIをいじめ抜くための試験を企画するのは、本当に想像力のいる仕事でした。ときには「そんな状況、絶対おきませんよ」なんて言われながらも、知恵をしぼって、試験を繰り返しました。

● 太陽電池電流計測回路の設計ミス

それでも一部の問題は,見つからぬまま残ってしまいました。これはチェック不足に起因する私のプロジェクト進行上のミスだったといえます。たとえば、太陽電池電流計測回路の設計ミスは、見逃してしまっていました。フライトモデル(FM)開発に移行してだいぶたってから設計ミスに気づき、電子基板の再設計と再発注をする羽目になりました。ウン十万円かかってしまいましたが、海外出張中の先生に頼み込んでOKをもらいました。また、そのあとできてきた基板に、なかなか理解できない問題が残ったままFMを完成させたため、半年以上、酒匂といろんな試験や解析を行って、問題を解決したことがありました。