青く美しい太陽電池
語り手:酒匂 信匡(さこう・のぶただ)

○ 太陽電池が来た日

太陽電池が届いた日のことは、よく覚えています。梅雨の終わりのころだったと思います。大きな箱に、赤い字で「宇宙用太陽電池在中 高価・貴重品のため、取り扱い注意のこと」と書いたシールが目立つように貼ってありました。太陽電池っていうのは、すごく華奢で、自分の重みでパリンと割れてしまうようなもので、しかもとても高価なので、とても気を使いました。大事に取り扱うよう、メンバー全員におふれを出していました。

 

メーカーですか?シャープです。アメリカのでもっと安いのがあったので、買おうと思ったんですが、輸出規制があって、ダメだったんです。値段は、確か、130万円くらいでした。キューブサットの大きさは10センチ×10センチなのですが、その大きさに合うようなものがなくて、加工してもらいました。大きさが微妙に違う3種類のものを二組ずつという、とても面倒な注文だったのですが、受けてくださったので助かりました。値段が高いのでどうかと思いましたが、担当の方がとても親切にいろいろ教えてくださったので、ノウハウもたまって、結果的にはよかったと思います。

● 電源系

電源系は、縁の下の力持ちみたいなところがあって、通信系や電子系など、ミッション遂行に直接関わる皆さまのためにがんばる、という役どころです。これがないと、通信はもちろんできないし、コンピュータも使えないし、衛星の力はほとんど発揮できないわけです。ミッション達成のために、必要不可欠ではあるけれど、たいてい、ミッションそのものにはならないので、黒子的な存在です。技術的には、けっこう苦労するところではあるんです。ミッションが増えれば増えるほど、電力が必要になりますから、なんとかひねり出すためにいろんな工夫をします。太陽電池は直流なので、直流だけの世界で考えないといけないんです。地上では、電気といえば、交流ですよね。だから、少し勝手が違います。

電源系のメンバーは、私と永島、有川、鵜川、船瀬の五人でした。みんな学年が違うんです。こうすると、「技術の継承」も自然にできますからね。とにかく人手が足りないので、一人が二つ以上の系に属して、一人二役以上受け持って、勉強しながら開発しました。

電源系は、ずっと黒子で目立たない存在でやっていたのが、太陽電池が届いて、急に表舞台に出ました。なんといっても、一番目立つところに貼りますし、値段も、開発費の半分以上ですからね。

届いた太陽電池は、ケースの中に大事そうにしまわれていたんですが、きらきら光っていて、本当にきれいでした。これを、今から貼るんだと思って、身がひきしまる思いでした。失敗は絶対に許されないですからね。失敗しないような段取りをきっちりと考える必要がありました。手順書ももちろん作りましたし、模擬練習もしました。

○ 接着作業     10月27日

太陽電池は、持ち上げただけでパリンと割れるようなシロモノですから、そのままではとても衛星に貼ったりできません。高価で繊細なんです。それで、特殊な接着剤を使い、アルミの金属板に貼ります。軽くするために、アルミ板に穴をあけてもらうよう、北野製作所というところに頼みました。貼りなおしなどはできませんから、ちゃんと貼るために、ジグ(道具)を使いました。ジグですか?もちろん、お手製です。何でも、自分たちで作るというのが常識みたいになっていたので、必要に応じて、何でも作りました。塗り方にもけっこうコツがあって、何回も練習しました。接着剤は、混ぜ合わせて作るんですが、それは、混ぜてからだんだん固まっていく性質を持っているんです。そうでないと、くっつかないわけですが、固まる時間がけっこう短いので、手際よく、時間内に作業を終えないといけないので、時間を計って練習したりしました。接着強度試験というのもしました。

そのころ、いつも、夜中じゅう作業をしていたんですが、太陽電池接着作業の前日は、「早く帰宅して、よく寝るように」というお達しが出て、みんな早くに帰りました。睡眠不足で手元が狂ったりしたら、数十万円がパーですからね。私も、久々に早く寝ました。

そして、当日。
打ち合わせどおり、私と永島が主として作業にあたり、鵜川と船瀬がバックアップ。クリーンルームの机の上に、必要なものを全部用意して、いよいよ作業開始です。何度も練習したので、そのとおりにすればいいのですが、やはりけっこう緊張しました。無事に貼り終えたときは、本当にほっとしました。接着剤が乾くまで、おいておくんですよ。一週間くらいだったと思います。クリーンルームの中に、そのままおいておきました。

○ CubeSatに搭載  11月15日

電源系と他の系を統合するのがけっこうたいへんでした。こういうのは、部分がひとつひとつちゃんとできていないといけなくて、なおかつ、部分同士のインターフェイスがうまくいかないと、思うように動かないわけです。全員が完璧に仕事をするということはもちろんですが、それだけでは足りないのです。最後の太陽電池パネルの金属板をつけたときには、あまりの美しさに、しばらく見とれていました。

○ 真っ青!太陽電池が割れた?  11月22日

太陽電池に、亀裂を見つけたんです。毎日、クリーンルームにいるXI-4(サイフォー)の様子を、何度か見に行っていたんです。可愛い娘ですからね。毎日、気になってしかたないんです。ある日、太陽電池の一枚に斜めに線が入っていたんです。ええ、私が見つけました。もう、真っ青になりました。昨日までなかった亀裂が入っていたわけですから、頭が凍りかけました。とりあえず、プロマネの津田には報告して、対応策を考えました。予備の太陽電池が少しはあったんで、これで何とか張り替えられるだろうかとか、また購入しないといけないんだろうかとか、いろいろ考えました。

電池の購入先のシャープに、まずは相談してみることにして、電話してみました。担当の方によると、亀裂が入る角度が決まっていて、それとは違うので、それはヒビではなく、結晶構造によるものだろうということになりました。胸をなでおろしました。