画像配信サービス − XI(サイ)のキモチ
語り手:中村 友哉(なかむら・ゆうや)

● 画像配信

僕が中須賀研究室に入ったのは四年生のときで、キューブサットのEMをちょうどこれから作る、というフェイズでした。津田さんと宮村さんがカメラの開発をしておられて、僕はお二人にくっついて、NALでの実験に参加したりしました。NALには地球シミュレーターがあるので、それを使ってどう写るかなど、いろいろ試しました。それから、津田さんに、「画像のソフトを作ってみない?」と言われて、データから画像を復元するソフトを作りました。「イメージデコーダー」という名前で、宮村さんが作ったのがあったんですが、それはコンソール・アプリケーションで、ユーザーインターフェイスがなかったので、いろいろな機能をつけて作ってみました。

そういう経緯があったので、カメラとか画像にはけっこう思いいれがあって、何とかこの画像を一般の人に見てもらいたいと思いました。キューブサットのことを知ってほしいし、宇宙からの画像を見てほしかったんです。それで、携帯電話に送ることを考えました。ソフトウェアを作るのは、コンピュータさえあればできるので、一人で、誰にも相談しないで、勝手に作り始めました。メールを送るSMTPから勉強して、仕組みがわかったところで、プロトタイプつくりに取り掛かりました。2週間くらいかかったかな。それができたところで、「画像配信サービスみたいなことをやりたいんですけど」とミーティングで言ったら、みんな賛成してくれて、やりましょうということになりました。

携帯電話はいろいろあって、少しずつ仕様が違うので、研究室のみんなに協力してもらって、いろんな携帯電話に送らせてもらって、試しながらバグをとっていきました。

● 登録1400人突破

五月祭で紹介したら、10人ちょっとの申し込みがありました。あとは、ホームページに載せるのと、知り合いとか親戚とか、個人的な伝手でお知らせしていって、百人くらい登録してくれればいいかなと思っていました。それで、自動登録システムを作らず、手動で登録するようにしていました。ところが、新聞に取り上げてもらったり、Yahooニュースに載ったりするうちに、どんどん登録者が増えていって、なんと1400人を突破してしまいました。自動登録にしておけばよかったとも思いましたが、励ましのメールつきの申し込みが多かったので、そういうのを読むと元気づけられました。

でも、一番登録希望者が増えてたいへんになったときに、僕はロシアへ行くことになったので、後を武井と中田にまかせてしまったんです。彼らは、それでなくても忙しかったのに、登録作業に追われてすごくたいへんだったと思います。自動登録にしていなくて、申し訳なかったです。

● リセットの苦悩

画像を送るサービスをするということにしていたのですが、思いがけないことがおこってしまいました。もともと帯域幅が狭くて、一度におろせるデータの量が少ないので、何度もデータをおろして、画像を復元することにしていました。一回に降りてくるのは、数本の線くらいなんです。ジグゾーパズルみたいな感じで、絵が表われてきます。時間はかかるけれど着実にできるはずだったんです。

ところが、思いがけないことに、OBC(衛星搭載コンピュータ)にリセットがかかってしまうことがたびたびあって、そのたびに初期状態に戻って、画像データもなくなってしまいました。これは、ロケットから切り離された瞬間の写真を撮りたいということで、リセットしたら写真を撮るというプログラムを組んでいたためなんですが、こんなにリセットが起こることは想定していなかったんですね。リセットしても、画像は上書きされないプログラムにしておけばよかったんですが、後の祭でした。宇宙へ行って直すわけにいかないですからね。それで、一枚の画像をおろしきれないうちに、上書きされてそのデータがなくなってしまうということが何度もあって、頭を抱えました。一週間に一枚は送るなんて大見得を切っていた手前、焦りました。登録している人からはまだですかって問い合わせが来るし。

リセットに苦しめられながら、何とかとれた画像を、やっとの思いで初めて配信したとき、「感激です!携帯電話の待受画面に設定しました!」っていうレスがあったんです。画像はちゃんとした地球じゃなかったけど、ここまで喜んでもらえたことが心の底から嬉しかったです。今までの苦労が全部吹き飛びましたね。最初は単なる思いつきの企画でしたが、本当に実現させてよかったと思った瞬間でした。

   
   
XIが宇宙で撮った写真の一部
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リセットの原因ですか?日陰から日向にいくときに、起こるようなので、それが関係しているのかもしれませんが、まだ明確にはなっていません。1ヶ月たったあたりから、起こらなくなっているんですが、衛星がずっと日向にいるせいかもしれません。

● XI(サイ)のキモチ

XI(サイ)に一人称で語らせるようにしたのは、ちょっとした思いつきでした。画像がなくても、衛星の健康状態の情報だけでも受け取ってくれる、っていう人がとても多かったんです。もともと津田さんが幻の「つだめーる」で実現しようとしていたものです。実際サービスを始めるときになって思ったんです。こんなに多くの人が登録してくれているけど、衛星の温度やら時刻やら、ただの数字の羅列を毎日受け取って楽しいだろうか?研究室のメンバーなら、そりゃ受け取りますよ。だって仮にもサイの親なわけですから。でも、衛星とロケットの区別もつかないような人だって登録してくれてるわけです。どうしたら次々届くサイからのメッセージが楽しみになるかな、って考えました。そしてたどり着いた結論が、「サイにしゃべらせちゃえ!」でした。「XIのキモチ」(←カタカナ、ポイントですよ)は、研究室のメンバーが交代で書いてます。みんな、結構なりきって書いてますよね。

このコーナーは予想以上に反響が大きくて、びっくりしてます。「かわいい」「わかりやすい」などの感想が寄せられたときには、嬉しかったですね。励ましや感想のメールなど、本当にたくさんいただいて、感激しています。その中にときどき、サイに向けて返信してくれる人がいるんです。「宇宙には慣れましたか?」「こっちは雨だけど、元気ですか?」「君の見ている眺めを、私にも見せてね」こういうのには、思わず頬が緩んじゃいました。それから、サイのアイコンを作って送ってくださった方もありました。サイがカメラを持っているんです。こんなに愛される衛星も珍しいですよね。

  <証言:津田 雄一(つだ・ゆういち)>
中村には、いつも驚かされました。もちろん、いい意味でですよ。
カメラの画像を出すのに、プログラムが必要なんですが、それまでは、ばらばらのデータのゴミの山みたいなところから正しいのを拾って、jpgにするだけというのを作っていました。中村に、「画像のソフトを作ってみない?」といったら、すごいのができちゃったんですよ。それまでの単機能プログラムから飛躍的に発展した、なんでもできるソフトを作っちゃったんです。それから、キューブサットの解析ソフトとして、ツダタームというのを作っていたんですが、中村がそれを改良してくれたこともありましたね。僕は、あまりこだわらない性質なので、改良してもいいかって言われたとき、どうぞどうぞって感じでした。それで、ツナタームとしてシェアウェアとして、売り出すことにしました。津田のツと中村のナを合わせました。もう、500件以上もダウンロードされて、使ってもらっています。「つだめーる」ソフトは、キューブサットのデータを自動的に携帯電話に配信するように作ったソフトだったんですが、東大が停電になったときにハードディスクがクラッシュして消えてしまいました。その後、中村が独自に作ったソフトは、画像やデータを選んで好きなときに配信できる、すぐれものでした。