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『しんえん(UNITEC-1:UNISEC Technological Experiment Carrier-1)』の近況について

2010年 12月14日
UNISEC代表:中須賀 真一

「しんえん」は、世界で初めて大学のような民間団体が開発した深宇宙探査機で、平成22年5月21日の6時58分(日本時間JST、以下同じ)JAXAの金星探査機「あかつき」(PLANET-C)に相乗りしH-IIAロケット17号機で金星に向かう軌道に投入されました。

この「しんえん」にはデータ処理装置、電源装置や通信装置などのバス系機器に加えミッション機器として大学製コンピュータ(UOBC)、カメラと宇宙放射線カウンタなどが搭載されました。UOBCは6台で、これらは九州工大における環境試験コンペで振動と熱真空環境の試験を経て選定されたものです。「しんえん」の構造は、ロケット打上げ時の各種荷重や衝撃、振動に耐荷できるよう設計されており、この妥当性は九州工大、北海道工業試験場、JAXAの地上設備を用いた実験で確認できています。また「しんえん」はロケット打上げ時の地球近傍を起点とした熱解析を行い、各搭載機器の温度が評価領域で許容温度範囲内になるように熱設計されています。さらに「しんえん」は、JAXAのH-IIAロケット相乗り規定を満足し、各部インヒビット(安全装置)を実現するなど安全性をとても重要視して設計、開発が進められてきました。

5月21日16時から22日2時、「しんえん」からアマチュア無線の周波数で送信された電波の受信に成功いたしました。この時の地球と「しんえん」との距離は、月までの距離に相当する約30万kmでした。この距離での受信は、恐らく学生が開発した衛星が発信する最も遠いところからだと思われます。

初日の送信電波の間隔から、データ処理順序(以下、シーケンス)の実行は予定通り実施されていたと推定できます。また初日の受信情報からキルスイッチおよび電源起動制御の動作が正常であること、また機体が約35秒で1回転していること、出力9.6W、送信周波数5.8GHzの送信機がマザーコンピュータ(以下、MOBC)からの指示により「ON-OFF Keying」による低速データ送信(1bps)および「FM Keying」による高速通信(1200bps)をしていることなどが確認できています。これらのことから、「しんえん」の安全設計は妥当であり、構造も打上げ時の機械環境に耐荷し、ロケットから正常に分離できたと考えられます。さらに「しんえん」は無事にバン・アレン帯を通過し、少なくとも約30万kmまでは電力が供給され、MOBCや送信機などの機器が機能していたとことも確認できています。また初日に通信に成功できていることから、その段階では機体内部は極端な高温および低温状態ではなかったとも考えられます。

22日16時以降31日まで、勝浦通信所、山口大、東北大、和歌山大、九州大、香川大、愛知工科大のアンテナを駆使し電波受信活動を続けましたが、周波数ドリフトが想定したより大きく、受信周波数を数kHz以内で確定できないため、帯域を絞った追跡ができないことなどから受信に成功できませんでした。

31日以降、受信局の多くが3mアンテナで、ゲインが低いため理論的にも受信できる距離ではなくなったため、運用を中断し、その間に、開発チーム・運用メンバーで故障原因の解明と今後の運用の方針について、集中検討してまいりました。現在のところ、電波を受信できていない理由は、回復不可能な過電流、回復不可能な電源装置の故障、バッテリ機能が失われるような想定外の低温になり、これにより電源供給が非常に不安定、もしくは停止してしまったのではないかなどのいくつかの仮説が出ています。しかしながら、いずれにおいても状況証拠はあるものの、これと断定できるような明確なエビデンスが見つかっておらず、可能性が複数同定されるまでにとどまっています。この原因特定については現在も検討中であり、このため受信情報の詳細分析を続けています。

9-11月にもNICTの鹿島局や山口大局のご協力で受信実験を実施しましたが、明確な信号はキャッチできませんでした。ただ、微弱な電波が受信できている可能性もまだ排除できないので、局で受信したすべての信号を詳細に確認する作業を続けています。

現在、深宇宙探査機「しんえん」は金星近傍を飛行中です。この「しんえん」は世界で初めて大学生が主体となり、実質わずか1年、宇宙関係機関・企業からのありがたい部品の寄付と900万円の低予算で開発され、バン・アレン帯以遠の約30万kmの位置からアマチュア無線の周波数で電波を送信しました。その電波は大学生や日本アマチュア無線連盟、日本アマチュア衛星通信協会など国内外のアマチュア無線家の方々のご協力によって受信されました。心より感謝いたします。これは世界に誇ることができる成果だと思います。しかし、その後の電波受信には成功できていません。「しんえん」を開発したUNISECのメンバーは、この原因解明を鋭意続けており、今後の宇宙開発進展の一つの資とするため、その成果を論文などにまとめて広く伝えていきたいと考えています。

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